
Gusgus / VIP (Ron Trent Vocal Mix)
北欧の静寂とChicagoの躍動が溶け合う、浮遊するDeep House傑作。アート集団としての出自を持つ異色のエレクトロニック・バンド GusgusがリリースしたVIPのレコメンド。その中でもひときわ異彩を放つのが、Chicago Houseの巨匠Ron TrentによるこのVocal Mixです。
北欧の冷たい空気を閉じ込めたような音像
針を落とした瞬間に広がるのは、まるで北欧の冷たい空気をそのまま閉じ込めたかのような透明感あるサウンドスケープっ!静謐なシンセ・パッドがゆっくりと空間を満たし、その奥から柔らかなピアノの旋律が浮かび上がってくる導入は、すでに「ただのRemixではない」ことを予感させます。音数そのものは決して多くないのに、それぞれの音の間に十分な余白があるコトで、左右だけでなく奥行きまで感じさせる立体的な音像を作り出している。オリジナルの持つエレクトロニカ的な質感を尊重しながらも、Ron Trentはそれを大胆に分解し、Gusgusの持つ冷たく幻想的な世界観を残したまま、よりダンスフロアへと開かれたDeep Houseへと昇華させています。
Ron Trentが作り出す「引き算」のグルーヴ
タイトに刻まれるキックと、オーガニックな響きを持つパーカッションがジワジワとグルーヴを形成し、ミニマルな構成の中で徐々にドライブ感を高めていきます。ここで興味深いのは、ピークに向かって音を次々と足しながらハデに展開するのではなく、あくまで必要な音だけを残してフロアのテンションをコントロールしていくところでしょうね。同じリズムが繰り返されているように感じながら、気がつけば身体がそのグルーヴに深く入り込んでいる…この「引き算」で魅せる美学こそが、Ron Trentらしさの真骨頂と言えるでしょう。Chicago Houseの持つ肉体的な躍動感がありながら、決して荒々しくならず、どこまでも深く、静かにフロアを動かしていくところが実にカッコイイ。
ストリングスとヴォーカルが生み出す浮遊感
中盤、ストリングスが重なり合いながら広がっていく瞬間は圧巻で、フロアにいながら意識だけが遠くへと連れていかれるような没入感を生み出します。ヴォーカルは囁くように、しかし確かな芯を持って響き、内省的でドコかロマンティックな空気を漂わせる。リリックは曖昧な距離感や感情の揺らぎを描いたもので、リスナーそれぞれの解釈に委ねられる余白を持っているのも印象的です。ビートに身体を預けながらも、シンセやストリングス、ヴォーカルの残響によって意識は別の場所へと漂っていく…身体を踊らせるだけではなく、聴き手の内側へ入り込んでくるような精神性の高さも、このVocal Mixを特別な存在にしています。
ElectronicaとHouseが交差した1999年
1999年当時、EUではElectronicaとHouseの境界が溶け始め、よりディープで精神性の高いダンスミュージックがクラブで支持を集めていました。本作もまさにその流れの中にあり、Electronicaをルーツに持つGusgusの世界観と、Chicago HouseをバックグラウンドとするRon Trentのグルーヴが交差したコトで、どちらか一方だけでは生まれなかった独特のサウンドを作り出しています。DJにとってもピークタイムにイッキに爆発させるタイプではなく、「フロアを温めながら空気を変える」ために使えるキートラックでしょう。ハデなヒットチャートを駆け上がるタイプの楽曲ではないものの、こうしたジワジワと効いてくる曲こそ、長いDJセットの中では実に重要な存在だったハズです。
2枚組12インチで体感するDeep Houseの真髄
さらに、このUKオリジナル2枚組仕様という贅沢なフォーマットも見逃せません。片面1曲フルカッティングという構成は、この繊細な空間表現をじっくり体感する上でも魅力的で、シンセ・パッドの広がり、パーカッションの細かな響き、そして低域のグルーヴまで12インチならではのスケール感で楽しむコトができますよ。カップリングに収録されたDubバージョンもまた、ヴォーカルをさらに削ぎ落とすコトで音の隙間や余韻が強調され、セットの流れを構築するDJにとっては頼もしい存在です。同じ楽曲をVocalとDubで聴き比べるコトによって、Ron Trentがどのように空間を作り、グルーヴを組み立てているのかまで見えてくるところも12インチのおもしろさでしょうね。聴けば日常の喧騒からふっと切り離される感覚…Ron Trentが描いたこの音の旅は、単なるダンスミュージックを超えた体験として、今なお色褪せるコトなく響き続けています。Deep Houseの真髄を味わいたい方には、間違いなく聴いて欲しい1曲です。


